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冬期野菜栽培実験の結果報告について
冬期野菜栽培実験 結果報告
軽井沢町発地市庭における冬期(12月から3月)地物野菜出荷を目的として、平成29年度から令和元年度にかけて、軽井沢町における冬期野菜栽培に関する実験を行いました。
3年間の実施経過を下記のとおり報告します。
平成29年度実施結果
平成29年度各月平均気温:12月-1.8度、1月-3.7度、2月-3.6度、3月3.5度
ハウス規模 | 大型 | 作付品目 | キャベツ、サニーレタス、レタス、べんり菜 | |
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温度調整方法 | ハウス内に窪地を掘り、コンパネで囲った発酵槽を作成。発酵槽に破砕済みチップを入れ、窒素材とカラマツの木酢を混入し、塩ビの有孔管を立てることで発酵槽から出る発酵熱、二酸化炭素を利用して栽培を行った。 | |||
実験結果 | 温度 | チップ:約50度/ハウス内:最高で42度 | ||
出荷実績 |
出荷品目:レタス10玉、ベンリナ8株 |
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生産者 |
栽培は可能だが、育成にばらつきが多く商品化は難しい。また栽培品種の生育速度は低調で、通常栽培より1ヶ月の遅れが見られた。 |
ハウス規模 | 大型 | 作付品目 | ほうれん草、キャベツ、パクチー | |
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温度調整方法 | 既存のビニールハウスを二重ビニールハウスに改良し、低温化抑制のためのストーブを設置して栽培を行った。 | |||
実験結果 | 温度 |
ハウス内:平均して約10度程度の保温効果あり |
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生産者 |
栽培自体は可能だが、出荷には至らなかった。夜間の温度から生育適温を確保できず、栽培期間が長くなること、燃料費がかかること等から経済栽培は困難と考える。 |
ハウス規模 | 中型 | 作付品目 | ハーブ、ニンジン、ミズナ | |
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温度調整方法 |
既存ビニールハウスを二重ビニールハウスに改良し、好熱菌を土壌に混入して蓄熱性を高め栽培を行った。 |
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実験結果 | 温度 |
好熱菌により地中温度が0度以下になることはなかったが、ハウス内温度は4月上旬から中旬並みにとどまり、野菜の生育には適さない。 |
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生産者 |
ハウ内の温度が保てなかったため、発芽率の低下により出荷には至らなかった。好熱菌による冬期栽培は困難と考える。 |
平成30年度実施結果
平成30年度各月平均気温:12月0.2度、1月-3.3度、2月-1.5度、3月1.9度
ハウス規模 | 小型 | 作付品目 | サニーレタス、ほうれん草、ビーツ、小松菜 | |
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温度調整方法 |
ハウス内に窪地を掘り、コンパネで囲った発酵槽を作成。発酵槽に6立方メートルの破砕チップを、ハウス内周囲に深さ30cm、幅30cmの破砕チップを入れ、外との断熱を図り、発酵槽からでる発酵熱を活用して栽培を行った。 |
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実験結果 | 温度 | ハウス内:日中は平均41度、夜間は平均-2度(寒暖差は平均43度) | ||
出荷実績 |
出荷品目:サニーレタス90玉、ほうれん草57袋、ビーツ31個、小松菜80袋 |
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生産者 |
ハウス内気温の寒暖差により栽培期間が長くなるため、経済栽培は困難と考える。ただし、夜間の気温低下を解消できれば経済栽培は可能と思われる。 |
令和元年度実施結果
令和元年度各月平均気温:12月0.8度、1月-1.7度、2月-0.4度、3月2.8度
ハウス規模 |
小型 |
作付品目 | 小松菜、サラダほうれん草、スイスチャード、ラディッシュ、小蕪、小蕪(あやめ雪)、レタスミックス他 | |
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温度調整方法 | ハウス内に深さ1m、長さ2m、幅0.5mの穴を掘り、1立方メートルの破砕チップを入れて発酵させ、穴を覆うように不識布を掛けてハウス内温度を上げて栽培を行った。 | |||
実験結果 | 温度 | ハウス内:日中は平均25度、夜間は平均2度(寒暖差は平均23度) | ||
出荷実績 |
出荷品目:小松菜10袋、サラダほうれん草27袋、スイスチャード5袋、ラディッシュ69個、サラダセット45袋、小蕪38個、小蕪(あやめ雪)5個 |
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生産者 |
1mほどの穴を掘りチップを入れたことによって、近くの地温の上昇が見られ、穴に近い作物は成長が早まった。併せて、夜間の気温低下についても昨年度より緩和したが、夜間については暖冬の影響も考えられる。冬期栽培は栽培品種の検討によっては生育が早く、出荷量の増加に繋がるため、継続すれば経済栽培は可能と思われる。 |
※令和元年度は台風の影響を受け、事業開始に遅れが出ました。
結果報告
平成29年度の栽培実験では冷え込みの厳しさもあり、いずれの方法も経済栽培には至らず、多くの改善点が見つかりました。翌年度(平成30年度)はハウスの規模を小さくして、手法をチップによる発酵熱に絞り栽培実験を行いましたが、ハウス内の寒暖差が大きいために、生育の遅れやばらつきが見られました。令和元年度にはチップの設置方法を変え、コンパネによる発酵槽ではなく直接地面に穴を掘ってチップを入れたところ、昼夜の気温差を前年度の約半分に抑えることができ、また地面から伝わる発酵熱が近くの作物の生育に良い影響を与えました。なお、平成30年度及び令和元年度は比較的暖冬傾向にありました。
以上のことから、軽井沢における冬期栽培は木質チップの発酵熱を活用することがコスト面(※1)や実績(※2)からも有用であり、かつハウス規模については小中型が望ましいと考えられます。夜間の気温低下を防ぐ取組や、施設整備等初期費用の負担はありますが、継続して冬期栽培を行うことで経済栽培が可能です。
※1…町の貯木場から枝を破砕した木質チップを無料で使用できるため。
※2…平成30年度実績、令和元年度実績から、冬期であっても出荷に耐えうる作物の栽培は可能である。ただし、暖冬による影響もあると考えられる。