歴史民俗資料館だより【2024(令和6)年度】
2024年 5月号
軽井沢における水道事業 -「木製水道管(もくせいすいどうかん)」編
わたしたちの暮らしに欠かすことのできない水。清潔な水を安定して、各家庭・学校・病院・会社などに供給しようと、これまで様々な工夫が、先人たちによってなされてきました。軽井沢における水道事業の歴史について、当館所蔵の資料をもとにひも解いていきます。
別荘開発のなかで行われた水道事業
大正7年(1918年)、堤康次郎が千ヶ滝(せんがたき)の開発に着手し始めました。「千ヶ滝遊園地株式会社」を設立し、水道敷設工事、共同浴場の整備など本格的な別荘地開発をおこなっていきます。
このとき、水道敷設工事に使われたのが「木製水道管」です。
「水道管は6尺(約1.8m)の松の丸太をくりぬいたものをつなぎ、道路の十字路ごとに直径6尺の桶を地面にうめて水をため、各別荘へは手桶(ておけ)・水汲桶にて運んだ」(町誌243頁)といわれています。
蛇口をひねれば簡単に水が出るような、現代の画期的な水道とはもちろん異なりますが、木の中心をくり抜き、つなぎ合わせるという手の込んだ技術によって、水道敷設事業が進められたことが分かります。
水道のほかにも道路や、バスの運行、電気、浴場など避暑生活を快適に送る条件が整っていきまます。このことは、それまで旧軽井沢周辺に分布していた別荘地が、町全体に広がっていくきっかけにもなりました。
次号では、大正15年(1926年)の軽井沢町の施策による上水道敷設について取り上げ、水道事業にみる地域の歴史を追います。
写真:2024年5月1日撮影 歴史民俗資料館蔵「木製水道菅」
(1)立てかけられているのは、中軽井沢北部で発見されたものと伝えられている。恐らく、先の千ヶ滝開発によるものかと思われる。
(2)横たわる太い木製水道管は、平成17年(2005年)に新軽井沢地区矢ヶ崎の地中1m20cmから発掘した。明治時代~大正時代のものと推定。
(学芸員 蒲原)
2024年 4月号
開館(2024(令和6)年4月2日(火)~)のお知らせ
当館は、昨年11月16日より冬期休館しておりましたが4月2日(火)から開館しております。休館日は毎週月曜日です。
さて、当館の展示室に入ってすぐにある真正面の巨大パネルには「道は、時代を無言のうちに物語る…ひんがしの山道(古東山道)・東山道・中山道―」という言葉が掲げられています。当館は「道の文化史」を基本テーマに据えています。縄文時代から近代にいたるまでの道に注目しています。江戸時代の参勤交代や、旅人、行商人など移動する人びとを支えた地域に築かれた独自の文化を、実物資料をもとにさぐることができます。
写真:2024年4月撮影「第1展示室入口」編集済
【歴史民俗資料館にある石仏】
展示室に入ってすぐ目につくのは、左手に丸で囲んであります、石造の角柱「馬頭観音兼道標」と石仏「聖観音/持蓮観音」でしょう。ここに展示される以前は、道沿いにたたずみながら、人びとや馬、動物たちの歩みを見守ってきたと考えられます。これらは、本来ならば建立された場所にあるべきものたちですが、当館で展示されているのはなぜなのでしょうか。
写真:2024年4月撮影「歴史民俗資料館に展示されている聖観音」
1体の仏像をもとに説明していきたいと思います。
その背景は、1981(昭和56)年11月10日の『信濃毎日新聞』の「高原調」という小さな記事のコーナーに書いてありました。
「軽井沢町千ヶ滝の別荘の庭に、新聞紙に包んだ石仏が捨てられているのを管理人が見つけ9日に、町教委に届け出た。
石仏は縦六十センチ横30センチ 上部とがった石に像が彫られている。帽子をかぶり、ほうきのようなものを背負った姿。腰には紐で縛ったような模様も。
石仏には製造年月日などが刻まれている例が多いが、文字らしきものは一切無い。~(後略)」
たくさんの石仏がこれまで様々な受難にあってきました。明治の初めの頃に行われた「廃仏毀釈」による破壊行動、戦後に頻発した盗難被害、開発工事や、自然災害などによる影響も深刻です。歴史民俗資料館では、そうした石仏を保護する場所としても機能してきました。
写真:2024年4月撮影「聖観音の拓本」
なお、当時の職員が拓本をとるなどして、石仏の出自を解明しようとしましたが、結局判明には至っていません。
当館では、このほかに10基(体)ほどの石仏が保護、展示されています。石造文化財は、さまざまな人びとの願いが込められています。特に軽井沢町は、古東山道、東山道、中山道のほか入山峠、和見峠、碓氷峠などの峠をかかえていることから、石造文化財が数多く存在する地域です。当館で「道の文化史」について学んだのち、ぜひ散策しながら石造文化財を見つけてみてください。
(歴史民俗資料館 学芸員蒲原)
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